GMP省令とは?2021年8月の改正理由・変更ポイントを分かりやすく解説!

GMP省令とは?2021年8月の改正理由・変更ポイントを分かりやすく解説!

GMP省令とは、医薬品と医薬部外品の製造所に対し、製造管理・品質管理の基準を定めた法令のことをいいます。2021年8月1日に16年ぶりの大改正が行われたため、対応策に悩む企業も多いかもしれません。そこで今回は、改正GMP省令の変更ポイントについて分かりやすく解説します。また本稿では「そもそもGMP省令は何のためにあるのか」「GMP省令はなぜ改正されたのか」から紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

そもそもGMP省令とは?

そもそもGMP省令とは、どのような法令なのでしょうか。
ここでは、GMP省令の定義と制定された背景について簡潔に解説します。

(1)「GMP省令」の定義とは?

そもそも「GMP(Good Manufacturing Practice)」とは、製造所で遵守すべき製造管理・品質管理の基準のことを指します。原材料の入庫から製品の製造、品質検査、出荷にいたる全工程で製造所が守るべき指針とも言えるでしょう。特に医薬品は患者の命に関わる商品だからこそ、安全と品質が確約されていなければいけません。そのため、誰がいつ作業しても高品質な医薬品を製造できるよう、GMPという厳しい基準が設けられているのです。

このGMPの基準を法令として明文化したものが、「GMP省令」です。正式名称は「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(※)」で、1980年に厚生労働省の省令として公布されました。もともとGMPへの適合は医薬品の「製造業」の許可要件でしたが、2005年から「製造販売業」の承認要件となっています。つまり、製造所がGMP省令を遵守していなければ、医薬品の製造販売は認められないということです。

※全条文:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令|厚生労働省

(2)GMP省令が制定された背景とは?

もともとGMPは、薬害が問題視されていたアメリカで提唱されたのが始まりです。
1962年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が初めてGMPのベースとなる生産管理・品質管理の基準を法制化したのを受け、1969年にはWHO(世界保健機関)も「WHO-GMP」を作成しました。WHOは世界的に医薬品の安全性を高めるため、1969年に加盟国に対して、GMPの証明制度に基づく医薬品貿易を行うよう勧告したのです。WHOの勧告を受け、各国では独自にGMPの導入をスタートさせます。日本でも1976年より行政指導が始まり、1980年にGMP省令が定められました。つまり、GMPを遵守することは、国内だけでなく国際市場においても要請されているということです。

GMPの3原則とは?

GMP省令を遵守するためには、「GMP」が具体的にどのような概念なのかを知っておく必要があるでしょう。

そもそもGMPで目指すべき目的は大きく3つあり、「GMPの3原則」とも呼ばれています。GMPを遵守するには、3原則それぞれに対して、ハード(設備)・ソフト(ルールや教育)の両面から対策を施すことが大切です。ここでは、GMPの3原則と、それぞれの原則を達成するために必要な取り組みについて簡潔に解説します。

(1)人による間違いを最小限に抑える

一つ目の原則は、作業者によるミスを最小限に抑えることです。たとえ医薬品の製造指示書が完ぺきでも、作業する側の人間が秤量や作業工程などの間違いをしてしまえば、基準を満たしていない製品を流通させてしまうことになります。ハード面で必要な取り組みとしては、「作業しやすいように製造所に十分な広さを設ける」「設備に分かりやすい標示を取り付ける」などが代表的です。また、ソフト面での取り組みには、「自社のルールをまとめた手順書を用意する」「作業者には十分教育を施す」「実施した作業は必ず記録する」などが挙げられます。

(2)医薬品の汚染・品質の低下を防ぐ

二つ目の原則は、医薬品が汚染されたり、品質が下がったりするのを防ぐことです。作業環境や作業手順によっては衛生的に問題が生じてしまいかねないため、すべての製造工程を通して十分な配慮が求められます。ハード面での取り組みとしては、「原料や製品の保管場所を明確に区別する」「空気の汚染を防げるような設備にする」「防虫・防鼠(ぼうそ)対策を行う」などが必要でしょう。また、ソフト面では「職員へ衛生教育を行う」「複数品目を同時に製造しない」「製造所内の清掃について手順化して記録を残す」などの取り組みが挙げられます。

(3)品質の高さを保証するための仕組みをつくる

三つ目の原則は、高い品質を保つための仕組みをつくることです。つまり、いつ誰が作業しても同じ製品をつくれるよう、作業ルールやシステムを整えておくことを意味します。ハード面での対策としては、「各設備のバリデーションを行う」「製造工程を考慮して設備を合理的に配置する」「機械の定期的な点検・校正を行う」などが代表的です。ソフト面の取り組みとしては、「品質部門と製造部門を独立させ、製造管理者によるチェックを行う」「製造に必要な情報を記録・管理し、改善に役立てる」「定期的に自己点検を実施する」などが求められます。

GMP省令が2021年8月に改正された理由とは?

GMP省令は近年、内容が抜本的に改正されました。2020年11月27日~12月26日のパブリックコメント募集、2021年4月28日の厚生労働省による施行通知を経て、2021年8月1日より正式に施行されました。そもそも今回の大改正は、なぜ行われたのでしょうか。ここでは、改正の理由について大きく2つに分けて解説します。

(1)国際標準との整合性を図るため

WHOによる勧告以降、各国では独自の基準でGMPを定めてきました。ですが、近年はGMP基準の標準化を図るための国際的な動きが加速しています。なかでも、GMP基準の国際調和と当局間の相互査察が可能になるよう尽力しているのが、PIC/S(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)です。PIC/Sには2021年時点で54ヶ国が加盟(※)しており、PIC/SによるGMPガイドラインは今や実質的な国際基準になっています。日本も2014年にPIC/Sへ加盟したため、GMP省令とPIC/S GMPとの整合性を図る必要性が出てきたのです。

また、日本は欧州・アメリカ・日本の規制当局からなるICH(医薬品規制調和国際会議)にも参加しています。それに伴い、近年は国内でICHによるガイドライン「ICH-Q9 品質リスクマネジメント」(2006年)、「ICH-Q10 品質システム」(2010年)なども発出されました。2021年の改正GMP省令では、こうしたICHの各種ガイドラインとの整合性をとり、国内GMPの国際的な標準化を図りたいという目的もあります。

※参考:Members|PIC/S

(2)不正製造が問題視されたため

日本では近年、製薬企業による度重なる不正製造が問題視されてきました。2015年には組織的な記録偽造が発覚し、長期間にわたる業務停止命令を受けた企業もあります。また、PMDAによれば国内製造販売品目の約7割(※)で、製造販売承認書との相違が見られたとのことです。こうした製造実態の原因として、経営陣の現場に対する無理解や情報の隠ぺいなどがあると指摘されてきました。そのため、GMPの改正によって医薬品製造における上位経営陣の責任を強め、リスクを厳格にコントロールするよう促したいという狙いもあるのです。

※参考:GMP省令改正案のポイント|Pmda(PDF)

改正GMP省令(2021年8月1日施行)の主な変更ポイントとは?

2021年8月の改正GMP省令では、具体的にどのような点が変更になったのでしょうか。ここでは、主な変更ポイントを厳選して紹介します。詳しい変更内容やその他の改正箇所は、ぜひ条文も合わせてご確認ください。

※参考1(条文 ※新旧比較表):医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部を改正する省令(令和3年4月28日)|滋賀県(PDF)
※参考2(施行通知 ※逐条解説あり):医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部改正について(令和3年4月28日施行通知)|福岡県(PDF)

(1)医薬品品質システムの整備

改正GMPで新たに登場した要請として、医薬品の製造業者は実効性のある「医薬品品質システム」を構築しなければいけません(第3条の3)。医薬品品質システムとは、品質を管理するための仕組み・システムを指し、PIC/S GMPガイドラインでも言及されています。医薬品の製造業者は品質を確保するための基本的な方針と、方針に基づく品質目標を文書で定めて周知しなければいけません。また、品質目標の達成に向けて製造所の代表者や役員が主導してリソースを準備する必要があり、経営陣の積極的な関与が求められます(施行通知より)。

(2)品質リスクマネジメント

改正GMPでは、製造業者は「品質リスクマネジメント」を構築して、製造管理・品質管理を行う必要があります(第3条の4)。品質リスクマネジメントとは、医薬品の品質に対して好ましくない影響が及ぶ事象に対して、リスク管理を行う取り組みのことです。品質リスクマネジメントを構築する際には、必要な文書・記録を作成しなければいけません。また指定した職員に、文書の作成・保管に関する責任者の権限を与えることも必要です。

(3)品質保証(QA)担当組織の設置

従来のGMP省令で、製造所は「製造部門」と「品質部門」の設置が義務付けられていました。今回の改正では、「品質部門」の下に新たに「品質保証に係る業務を担当する組織」「試験検査に係る業務を担当する組織」を設置しなければいけません(第4条)。各組織には、業務を適切に行えるだけの十分な人員を配置する必要があります。ちなみに業務に支障がない場合であれば、品質保証・試験検査の兼任も認められています(施行通知より)。

(4)基準書の廃止・手順書の追加

従来のGMP省令で「基準書」とされていた文書は、改正GMP省令で「手順書」に変更されています(第8条)。例えば、衛生管理基準書は「構造設備及び職員の衛生管理に関する手順」へ、製造管理基準書は「製造工程、製造設備、原料、資材及び製品の管理に関する手順」へ、品質管理基準書は「試験検査設備及び検体の管理その他適切な試験検査の実施に必要な手順」へと名称変更になりました。これに加えて、「安全性モニタリングに関する手順」や「製品品質の照査に関する手順」をはじめ、17種類の手順書を別途作成する必要があります。

(5)製造業者・製造販売業者の連携強化

製造販売承認書と製品との相違が増えたことを受け、改正GMP省令では製造業者と製造販売業者の連携を強化するよう要請しています。具体的には、製造所で原料・資材・製品の規格・製造手順などを変更し、それが品質や承認事項に影響を及ぼす可能性がある際には、製造販売業者に連絡しなければいけません(第14条の2)。また、製品に重大な逸脱が生じた際には、製造販売業者に対して速やかに連絡する必要があります(第15条の2)。

(6)交叉汚染の防止

改正GMP省令では、交叉汚染を防止するため、製造手順等で所要の措置をとらなければいけません(第8条の2)。交叉汚染とは、2つ以上の製品を同じ製造所で製造する際に、工程内で混入して汚染が生じてしまうことです。改正GMP省令では、空調設備や作業室などの構造設備に措置を施し、交叉汚染を防ぐよう要請しています。

(7)是正措置・予防措置(CAPA)の徹底

改正GMP省令では医薬品のリスクマネジメントを強化するため、「是正措置」と「予防措置」が明文化されました。是正措置とは、不適合の再発を防止できるよう、原因を解消する措置のことです。また予防措置とは、不適合の発生を未然に防ぐための措置を指します。例えば、試験結果で製品が規格に適合しなかった際(第11条の8)や、製造手順に重大な逸脱が生じた際(第15条の2)は、是正措置・予防措置を講じなければいけません。

(8)データインテグリティの徹底

データインテグリティ(DI)とは、データがライフサイクルを通じて一貫性を保ち、完全・正確である状態のことです。改正GMP省令でも、データの完全性を確保するために、記録を厳格に管理するよう要請しています。具体的には、製造業者は手順書や記録の管理業務を行う者を、あらかじめ指定しなければいけません(第20条第2項)。また、担当者は手順書や記録に欠落・不整合がないよう、継続的に管理する必要があります(同条)。

データインテグリティについて詳しく知りたい方は、「データインテグリティ(DI)とは?対応が必要な理由と対策を分かりやすく解説!」もぜひ合わせてお読みください。

まとめ

改正GMP省令に対応するためには、ソフト・ハードの両面で最適化を図る必要があります。

ソフト面に関しては、SOPや手順書を改訂したうえで、継続的なメッセージによって社員の意識改革を図ることが重要です。ハード面では、交叉汚染の防止やデータインテグリティの確保ができるよう、設備の抜本的な見直しも求められます。特にデータインテグリティ対応については、製造所内のデータを正確かつ長期的に集約・保存できる仕組みが必要です。そのため、新たなシステムの活用・構築も含め十分な対策を検討すべきでしょう。

データインテグリティ対策をご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

参考: